ね こ ろ ぐ

イヌのココロを持ったネコ。イタリア暮らし。ドラマチックな毎日をつづっています。

曇ったグラス

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むかし、イギリスのブライトンという町にちょっとだけ住んだことがある。

よくある、語学留学。

大学を卒業して、ちょっとだけ働いて、少しお金もたまったのでヨーロッパに行ってみようというのと、何をするにしても英語くらいは話せないとな!と兼ねてから思っていたことがきっかけ。

ロンドンに行くときっとたくさんの日本人がいるだろうからと、ちょっと離れたブライトンという町の語学学校を選んだ。

宿泊はホームステイ。

そうすれば、おうちの中でも語学レッスンができる。

小さな子供がいる家族を希望した。

5歳くらいだと、私の英語と同じくらいのレベルなのではないかな、との企みだったけど、何の、何の、5歳の女の子は何でも知ってるし、よくしゃべる。

完全に私の負けだった。

 

わたしにとっては初めてのホームステイだったので、そのおうちに住む間はそこの子と同じ、ってつもりで、ちょっとした家事も積極的にお手伝いしようと心掛けた。

 

お食事は噂通り、イギリス風だったので、ハインツのお豆の缶詰をのせたパンだったり、『今夜はチキンパイよ。』と言われて楽しみにしてると、スーパーマーケットで買ってきた出来合いのものだっり、ちょっとさびしいものだったけど、唯一、ヨークシャー・プディングと彼らが言っていた塩味のスフレのようなものは奥さんの手作りで、それは私のお気に入りの一つだった。

 

彼らは、今思うとまだ若い夫婦で、セルフメーキング・ファミリーという見出しで新聞にも載っているのを見せてもらったが、地域のいくつかの若いカップルが一緒に自分たち自身でおうちを建てた人たちだった。

だから、ヨーロッパでは結構普及している食器洗い機なんてのも、そのおうちにはなかった。

うちにもないけどね。(ーー;)

だからお食事の後の食器は手荒い。

そこんちの子のつもりだから、当然お手伝い。

キッチンに入る。

2つの小さめのシンクがあって、片方にお湯をためる。

ヤシの実の絵の付いた台所洗剤をたっぷり入れる。

あわぶくぶく。

使った食器をその中で洗う。

で、

わたしは次は洗剤をすすぐんだと思って隣のシンクで待っていた。

 

ちがう!

奥さんが私に渡したのはふきん。

すすぐんじゃなくて、洗剤がまだついている食器をそのふきんで拭けという。

 

『え!』

なんかの間違いじゃないの?

もう一回聞く。

やっぱり拭けと言っている。

わたしの語学力のせいじゃない。

 

もしかして、このヤシの実の絵の付いている洗剤はとってもナチュラルなやつですすがなくてもいいのかな、と思った。

言われるままにしたけれど、すすがずに拭いたグラスはどれも曇っている。

お皿はセラミックだから見えないけど、きっと同じ状態なんだと思う。

 

しばらくして、ヤシの実の洗剤がなくなったから代わりの洗剤が置いてあった。

きれいな蛍光ピンクの台所洗剤。

ナチュラル度 ゼロ!

 

でも奥さんはやっぱり同じようにすすがずに洗剤のついた食器をそのまま拭きあげていく。

 

うーん、わたしは考えた。

この人たちも、きっとこの人たちの親の世代の人たちも、きっと洗剤をすすがずに食器を使ってきたんだから、この1か月や2か月、わたしもその食器を使ってもきっと死ぬことはないだろう。

でも、もしかしたら、ココんちだけがそうなのかもしれない。

 

確か近所にもう一人、日本人の留学生がいるはず。

彼女に聞いてみた。

 

彼女はそこんちの子になってお手伝いする気はなかったらしく、キッチンの様子は見たことがないと言っていた。

でも私の言葉に恐怖を感じたのか、食器をすすぐかどうか、確かめたんだそうだ。

 

やっぱりすすいでない…

 

わたしは、その後、一人のときにそっと食器棚のグラスやお皿をすすぎなおして、また元に戻しておいた。

でも、毎回できるわけじゃない。

 

今は、イギリスでも食器洗い機が普及していることだと思う。

食器洗い機はきっと、すすぎもプログラムされていると思う。

でも、もしかして、イギリスの食器洗い機は洗浄の後に、乾燥のプログラムになってるんだろうか???

・・・・

 

 

 

 

 

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雨上がりの快晴。

泥水のアルノ川。